[ 夢見る少女は男の子! ]


女子高などというものは探せばどこにでもあるだろうし、そこに通う女生徒達が女子寮に在籍しているのも、外界から男という存在に接触させないためかもしれない。
だから、そんな処にいくら愛でても可愛くて仕方のない妹が来年進学するんだと聞けば、狼だらけの共学校に行かせるくらいならばと安心するくらいだ。だから一切の不安なんてない。けれど、さらりと聡い兄は言うのだ。『心配だねぇ。女子高と言っても教職員は若い男性もいるだろうし、女の子が好きな女の子もいると言うじゃないか』と。『無抵抗なナナリーに優しくする振りをして近づく不埒者がいるかもしれない』そんな馬鹿な。鼻で笑ってやったと言うのに兄の顔は真剣そのものだった。

『私が心配しているのはね、ルルーシュ。君のことなんだよ』

『……どういう意味ですか?』

『ナナリーがお兄様嫌いのお姉様好きになってしまったら不憫だなと』

『!』

『家にはコーネリアとユフィと言ういい例があるしね』

さらりと説得力のある言葉に、俺はもう立っている気力もなくなってしまった。女子高に通うほど男嫌いの女子はいるだろう。少なからずその子は女の子が好きだろうし可愛らしいナナリーはきっと標的だ。卒業するまでの三年間男がどれほど、例え兄であっても穢らわしいと刷り込むかもしれない。そうしたとき再会する妹の姿を想像すれば後は言うしかなかったのだ。俺は何をすればいいのですか、と。

(だからって…ないだろうこれは)

俺は正真正銘男な訳だ。人並みに…いや、人並み以下かもしれないが女性をそういう目で見たりも、する。
『女子高に潜入して不埒な輩がいないか探ってくるように』
…………女装して?
『ルルーシュだったらきっとバレないよ。ホラ、私だと年齢や背が誤魔化しきれないし…オデッセウス兄上に強要するのは可哀相だろう?』
…………いや、ないだろう。誰が行っても、バレるだろう。

げんなりと目の前の鏡を覗き込む。サラサラと肩を撫でる長い黒髪は勿論ウィッグだ。足を晒すスカートは何だかスースーするしバレるから、と強制的につけさせられたパット入りの下着も堅苦しいし心許ない。いつバレるのか、ヒヤヒヤとするのに、抵抗がない訳ではなかった。あの日の俺はどうかしていたのだ。

「ルルちゃんおっはよー!今日も美少女ねぇ」

「ほあぁっ!?」

かばっと後ろからパットの詰めた胸をむにゅむにゅ
と揉みしだかれ偽乳だと分かりつつも真っ赤になって叫んでしまう。見知った顔は「相変わらず女の子らしい可愛い反応だわー」と息を荒くしていた。

(有り得ない!女のくせに廊下で人の乳を揉むなんて!)

「会長!いい加減に…っ」

「ダメですよ会長ー。ルルーシュは僕の」

振り返り様にぎゅっと頭を抱きしめられる。「スザク」と同室の女生徒の名前を呼べば彼女は子犬のように可愛らしく微笑んだ。

「おはようルルーシュ。朝も見たけど、今日も白くて細くて舐めたくなるような綺麗な肌だねぇ」

つっ…とスザクの指先がスカートの中に潜り込んで太ももを撫でる。助けかと思えば伏兵だったか。「馬鹿なことを…」抗議しようと抱きしめる腕を引き剥がそうとしてむにゅり。柔らかい弾力が手のひらを捉えた。
先程から柔らかいものに顔が押し付けられているとは、思ってはいた。しかし考えたら負けなのだと思って。

(――――むっ胸!)

男の願望と言うべき豊満な胸へと望まぬ形で顔を埋めたところで慌てて距離をとる。揉んでしまった手のひらを非難するように「すまない」と謝ればスザクはにんまりと笑ってピットリと身体を擦り寄せてきた。

「いいよー。ルルーシュはね、可愛いから僕のこと好きにして」

「ば、馬鹿っ」

「柔らかい?気持ちいい?もっとする?」

「す…スザク…っ」

豊満な胸が囁か程度の偽乳に押し付けられてむにゅむにゅとした弾力を見せつけられた。
同室であるスザクは、とても可愛い。ふわふわほわほわした、少し男の子のような活発さを見せる少女だ。明るく優しく極力酷いトラウマを残してはいけないと着替えもお風呂も男だとバレないように避けている。

「好きだよルルーシュ」

しかし だ。困ったことにスザクはトイレにもお風呂にも付いて来ようとする。それはどうも俺を好ましく思っていてくれて、可愛い女の子が好きで、寧ろ女の子が好きで。―――……危惧していたレズらしい。

「こんな風に男に迫っていたら簡単に襲われているぞ…」

「ルルーシュは女の子だから襲われてもいいよぉ」

いや、男なんですけどね。俺も。正真正銘。

(潜入、なんて名目がなければとっくに押し倒しているかもしれない)

本当に?お前がか?と気の強い姉には言われてしまいそうなものだが。

「いいかスザク。お…私は、女だ。お前も女の子。わかるか?」

「わかるよぉ。で
、ルルーシュにないものが僕に付いてるんだよねぇ」

「っっ」

逆だ!お前に付いてなくて俺に付いてるんだよ馬鹿!思い切り言ってやりたいが実行したら俺は手遅れの変態扱いだ。
むにゅむにゅとスザクは俺の乳を揉んでいる。お前にあって俺にないものとはそのことか?ぺったんこの乳のことか?そりゃあ男なんだから胸なんか膨らみませんよ!全国の貧乳さんに謝れちくしょう!

「……っ…同性だ、」

「うん。相性ばっちり」

「問題だらけだろう!」

「そうかなー。ちょうどいいんじゃない」

「どこが!」

「性別」

「お前の百合趣向に巻き込むな!」

間違いではない。意図しなくてもスザクの言うことは合っている。スザクは女で俺が男。正しい関係性だ。けれど今はどうしても、間違っているのだ。

「…ケチ」

「全然ケチじゃない」

ぷく、と頬をふくらませて拗ねたスザクに思わずドキリとする。可愛いなんて不覚にも思ってしまった。

「やぁルルーシュ、枢木さん」

正面から歩いてきた男に思わず(うっ)と眉を顰める。間違いなく笑みを顔に貼り付けた男は俺に潜入を命じたシュナイゼルだ。
「シュナイゼル先生」と女子がざわめき立つ。先生としてシュナイゼルが潜り込むならば俺は何のために?と思うも起きてしまったコトは全て後の祭りだ。

「枢木さん、今日は君が日直だったよね?少しいいかな?」

「…はい」

むっつりとした顔は不満を表している。以前スザクにそういうことは男に言えと言ったら『男と恋愛とか結婚とかナイナイ有り得ない気持ち悪い』と粉砕してくれたほどだ。そうとう男嫌いなのだろう。同じ男である俺が暫く落ち込む否定ぶりであったし。
それを知ってか知らず知らずか肩を抱いたシュナイゼルに少しだけムッとしてしまった。

「スザクとシュナイゼル先生が出来てるって本当かしらねー」

「、」

「親密そうだって話よ」

「…………あり得ません」

(だってあいつは男が嫌いだ)

何故か意地を張るように呟いた言葉はちくりと胸を刺した。



*





「順調かな枢木君」

にっこりと笑みながら上司がそんなことをいうので僕は「勿論」と笑みを返した。

「シュナイゼル様の大事な妹君をお守りすればいいんでしょう?」

「妹君というか…まぁ、いいか…」

「ルルーシュは、とても僕の好みです」

断言すれば彼は苦笑する。流石に
本人の兄に言うのはまずかったか。

「しかし本当に、本物そっくりの胸だねぇ」

「ロイドさんが作ってくれたんです。肌はタイツで隠していたらなんとかバレないだろうって。僕、童顔なんで」

技術部の仕事で頼まれたのは何故かボディガードだ。妹が二人ほど入学するから、こっそりとサポートして欲しいと。まさか、それが女子高だとは思わなかったけど…。

(でも、あれだけ可愛い女の子だと、手が出ちゃうよねぇ)

(ぼく、男だから間違えてないのにな。…ルルーシュには言えないかぁ)

*

本当はどっちも男の子!






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